忍者ブログ
<< 2025/05 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  >>
ぽえまのこうしん
更新記録と小ネタ。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

青峰大輝は走っていた。
他の連中が何処に居るのかは分からない。
けれど野生動物並だ、と評されたこともある自分の勘を信じて走る。
見たこともないような広い日本家屋。
長い廊下には人は居ない。
何故こうなった。
ついさっきまで部室に居た筈だ。
練習には出ない癖に部室にはちょこちょこ顔を出している、其れが良かったのか悪かったのか。
2軍の誰かが拾って来たとかいう人形がどうしてだか部室に転がっていた。
今吉が気味悪がり、青峰も嫌なカンジがすると、其れを捨てて来いと桜井に押し付けた。
そうして気が付いたら一人で此処だった。
此れは何か面倒なこと、心霊現象的な物に巻き込まれたな、と思った。
青峰は多少霊感がある、らしい。
自分では良く解らないし、ホラー系は基本嫌いだが、見えるモノなら話は別だ。
なんか嫌なカンジのモノはとりあえずブッ飛ばしとけ、程度の適当さだが、とりあえず払うことも出来る。
成仏させているのか追い払っているのは判断出来ないが、中学時代、赤司にまあ大輝はそれでいいんじゃないか、と言われたので、それで納得している。
とりあえず武器になりそうなものは持っていたバスケットボールだけ。
でも此れで十分だ。
とにかく他の連中と合流しなくては。
妖怪なんじゃねえの、と巷で囁かれる今吉は、アレで結構な怖がりなのだ。
そして青峰が払えることも知っている。
素直では無い恋人だが、多分、待っている筈だ。
「ここか!」
青峰は辿り着いた部屋の襖を勢いよく開けた。
 



「何処や此処」
気が付いたら宴会でも出来そうな広い和室に居た。
旅館か何かだろうか。
襖はすべて閉じられ、窓も開かないようだ。
「若松、体当たりかましてみい」
「どっせーい!」
いつもの掛け声と共に若松が襖に体当たりしたが、びくともしない。
「まあこの状況やし想定内やな」
やらせておいて今吉はさらりと言う。
しかし通常営業の人が多々居ると異常事態でも其れなりに落ち着くものである。
さてどうしようか、と青峰以外の桐皇レギュラー、今吉・桜井・諏佐・若松の4人が顔を突き合わせた。
「っつーかその人形まだ持ってたんかいな」
「ひい!」
桜井が悲鳴を上げて持っていた物を放り投げた。
さっきの人形。
床に落ちた其れから黒い何かがむくむくと湧き出してくる。
煙のような、泥水の塊のような、不気味な其れ。
「桜井、こっちや」
手を引くより先に桜井が倒れた。
黒いモノに足を取られて転倒したのだ。
其れに引き摺られて畳に爪を立てる桜井の腕を今吉が掴んだ。
今吉も勢いで引き摺られ、其れを諏佐が捕まえた。
若松が最後尾で踏ん張る。
「なんや綱引きみたいやの」
「呑気だな今吉」
そういう諏佐も結構な通常運転だ。
今吉は言った。
「呑気なこと言わなやってられんわ」
「主将、スミマセン、ボク…!」
「しっかりせいや桜井、今青峰が来るからの。アイツこういうの追い払えるさかい」
「スミマセン、離してください」
「何言うとるんや」
「だってこのままじゃ、皆、」
「阿呆なこと言うなや。此処でお前見捨てたらワシの寝覚めが悪いやろが」
 
「アンタのかよ!」
 




「此処でお前見捨てたらワシの寝覚めが悪いやろが」
「アンタのかよ!」
襖を開けたと同時に思わず突っ込んだ。
瞬時に状況を判断して、黒い何かに向かって持っていたボールを投げつける。
断末魔ともとれる不気味な音を残して黒いものは霧散した。
今吉はひらひらと手を振って笑った。
「助かったわ青峰。死ぬか思うたで、桜井が」
「あのな」
自分は巻き込まれる気は無かったとでも言いたげな其れは、いざとなったら桜井を見捨てて逃げたんじゃないかと思わせる。
何処まで本気なのかこの男は。
「ほれ桜井、大丈夫かいな」
今吉は何時のも笑顔で、倒れたままの桜井を揺り起こす。
身体を起こした桜井がゆらり、と揺れた。
ヤバい、と思った。
「ちょ、待て今吉さん!」
「…っ!」
霊感は無いに等しいが、勘は良い今吉はすぐに伸ばされた桜井の腕から逃げようとした。
だが、遅かった。
「…っ」
桜井の腕が今吉の首を締めあげる。
「今吉さん!」
青峰が桜井の背中を思いっきり叩いた。
「…がぁっ!」
桜井の口から先ほどの黒いモノと同じナニカが出てきて、霧散して消えた。
「大丈夫か、おい!」
咽る今吉を抱き起こして青峰は叫ぶ。
「…あー…大丈夫や」
青峰を手で制し、今吉は桜井の肩を軽く叩いた。
「桜井、生きとるか?」
「…っ主将…ボク…」
ぼんやりと目を開けた桜井は弾かれたように起き上がる。
「…スミマセン!」
「ハイハイ、泣かんでええで。無事でよかったわ」
よしよし、と今吉は桜井の頭を撫でた。
青峰もホッと身体の力を抜く。
人の嫌がることさせたら右に出るものは居ないとか言われる通り、本当に敵に回したら面倒な主将ではあるが、身内には結構甘い、と思う。
自分は何も気を使ったり面倒見たりしていません、という顔をして、さり気に気遣いしてくるのだ。
例えば今も。
取り憑かれた桜井に、若松も諏佐も多分多少の恐怖感は持った。
それを首を絞められた自分が一番に駆け寄ることで払拭したのだ。
それから。
「…スミマセン、あ・ありがとう、ございます」
「別にワシ何もしとらんわ。青峰のおかげやで」
しゃくりあげながら礼を言う桜井に今吉はそう告げた。
手柄を人に押し付けるのも得意だ。
そうして自分はやっぱり何もしてません、という顔をするのだ。
 



気がつけば部室に戻っていた。
「あーなんや酷い目おうたな」
やれやれどっこいしょ、とおっさんくさい仕草で今吉はベンチに座った。
「ほんじゃもう今日は明るい内に皆はよ帰り」
主将の言葉に皆帰り支度を始める。
「青峰、桜井送ったってやってや」
「嫌だね」
「いえ、大丈夫です!スミマセン!!」
ペコペコ謝りながら部屋を出ていく桜井を見送って今吉が言った。
「大丈夫かいな」
「平気だろ」
呪詛の類ならもう返した筈だし、別に良を狙った訳じゃないし。
「なんややっぱりワシかいな。ワシ善良な市民やのに」
「嘘つけ腹黒。まあアンタだけってカンジじゃなかったけどな」
青峰には詳しいことまで解らない。
何となくそう思った、ただの勘だ。
二人きりになった部室で今吉は言った。
「で、青峰は帰らんの」
「アンタ送ってく」
「ワシ寮やしすぐ其処やで」
「…痕付いてる」
白い首に、くっきりと指の跡が赤黒く残っている。
青峰は今吉の首に手を伸ばした。
そっと指先で触れる。
「…ああ」
すごい勢いで絞められたしなあ、と何処か他人事のように今吉は言った。
そのどうでもいいような口調が気に入らない。
青峰は顔を寄せてその後をべろりと舐めてやった。
「…っ!なにすんねん」
「消毒」
「消毒て、何やねん」
今吉が青峰を押しのけようとする。
「こういうトコから霊障出るかもしれないからな」
「…だからて舐めるなや」
霊障と聞いて今吉の抵抗が減った。
青峰は笑う。
「だってオレ払えるし」
指の後に沿って舐めて、ついでに軽く歯を立てる。
「…っ」
今吉が小さく息を飲んだのが解った。
気を良くして更に舐め、吸って痕を残す。
「…ちょ、此処でするんか?」
この部室から変な場所に飛ばされたのだ。
平静を装ってはいたがやはり此処に居るのは多少怖いらしい。
青峰はにやりと笑った。


「んじゃアンタの部屋行っていい?」



END

***
青今
今吉さんが妖怪とか言われてるくせに怖い系苦手だったら可愛いな、と
個人主義だしワシは知らんとかいう顔して結構気を配ってたらいいな、と
そんで実は皆に愛されてたらいいな、と
やっぱり青今でしょ!を混ぜた結果。
青峰が霊が見える払える人。適当だけど。
そして諏佐が空気になってしまって件についてはホントスイマセン。
でも今吉さんの幸せを考えるならやっぱ青峰より諏佐ぁだよなあとは思ってるのよ。
だけど今吉さんが青峰が好きだ(=「最強は青峰や」)って言うんだもの。仕方ない。
若松も出番少なくてすまん。

拍手

PR